2006年5月 8日 (月)

心房ペーシングのため感知されなかった心室性期外収縮のT波の上に落ちる心室ペーシング

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まずは予備知識の確認です。

ペースメーカーは、徐脈を予防するために使用される。

この患者は、植込型除細動器が植え込まれている。植込型除細動器は、心室頻拍や心室細動を自動的に、電気ショックで止める機械であるが、ペースメーカーの機能も併せ持っている。今回問題なのは、ペースメーカーの機能である。

ペースメーカーは、さまざまに設定が可能である。

この患者では、

modeがDDIに、

lower rateが40/分に、

AV delay 250msecに設定されている。

Mode(モード:作動様式)には、DDD:ディーディーディー、DDI:ディーディーアイ、VDD:ヴィーディーディー、VVI:ヴィーヴィーアイ、AAI:エイエイアイ、などがある。

はじめの文字は、ペーシング部位(A:atrium:エイトリウム:心房、V:ventricle:ヴェントリクル:心室、D:dual:デュアル:[心房と心室の]両方)を示している。

2番目の文字は、センシング部位を示している。

最後の文字は、センシングしたときに、どのように作動するか(I:inhibit:インヒビット:抑制、Ttrigger:トリガー:引き金(誘発)、D:dual:デュアル:[抑制と誘発の]両方)を示している。

もっとも単純なVVIでは、ペーシングは心室で行なわれる。しかし、心室リードで、自己興奮をセンシング(感知)した場合には、ペーシングが抑制されて行なわれない。

AAIでは、ペーシングは心房で行なわれる。しかし、心房リードで、自己興奮をセンシング(感知)した場合には、ペーシングは抑制される。

DDIは、VVIとAAIの両方である。心室ペーシングと心房ペーシングは独立して行なわれるが、心房ペーシングが行なわれたあとで、心室ペーシングが行なわれるようになっている。どれだけ間隔を空けるかは、設定できる。この間隔をAV delay:エイヴィーディレー:房室遅延 またはAV interval:エイヴィーインターヴァル:房室間隔という。

DDDでは、ペーシングは心房でも心室でも行なわれる。心房でセンシングした場合には、そのセンシングを引き金にして、心室でのペーシングが行なわれる(この様式だけを取り出すとVATと表現することができる。)。このようなトリガー機能は、DDIモードには備わっていない。

Lower rate:ロウワーレートは、センシングしないときに、ペースメーカーがペーシングする頻度(1分間に何回か)を示している。つまり、完全にペースメーカーのリズムで動いているときには、1分間に40回、ペーシングされることになる。

1分間に40回ということと、1.5秒に1回というのは、同じ意味である。

1.5秒に1回は、1500msec(ミリセコンド)に1回と同じ意味である。

1分間に40回ということと、1500msec1回は同じ意味である。

1分間に40回ペーシングするということと、1500msec間隔でペーシングするということは同じ意味である。

1分間は、60秒である。1秒は、1000msecなので、1分は、60×100060000msecである。6000040で割ると、1500msecになる。

心電図モニターも、12誘導心電図も、普通は1秒間に25mm紙が流れる。つまり、25mm/秒で紙が送られている。25mm(ミリメートル)と1秒が完全に対応している。長さを測ると、時間がわかることになる。時間を長さに置き換えることもできる。

1秒は1000msecなので、

25mm1秒が対応しているということと、25mm1000msecが対応していることは同じ意味である。

25mm1000msecが対応しているということと、

1mm40msecが対応していることとは同じ意味である。

逆に40msecは1mmである。

1000msec25mmである。

1500msec37.5mmである。

1500msec間隔でペーシングしていれば、その間隔は150040msecで割った37.5mmとなる。

では、読んでみましょう。

この患者では、2つの幅の狭い、人工的な信号が見える。結論を先に言うと、はじめの信号は、心房ペーシングであり、2番目の信号は心室ペーシングである。幅の狭い波形になるので、スパイク:とげ、と呼ばれる。

DDI 40/分に設定されているので、ペーシング間隔は1500msecである。心室ペーシングスパイクから、1500msecつまり37.5mmさかのぼると、心室性期外収縮(PVC1)が認められる。このペースメーカーは、この心室性期外収縮のあとには、患者自身が出した心室興奮が無かったと思っていて、心室ペーシングを行なったのだと考えられる。

しかし、心室性期外収縮(PVC1)と心室ペーシングスパイクとの間には、もうひとつの心室性期外収縮(PVC2)が認められる。ペースメーカーは、この心室性期外収縮(PVC2)を感知し損ねたわけである。なぜか?

PVC2にもう一つのスパイクが重なっている。これが問題である。

このスパイクは、心房ペーシングスパイクである。

ペースメーカーは、すべて、ペーシングと同時に入る信号は無視することになっている。一方のペーシングスパイクを、もう一方のリードで感知してしまうと、感知した側のリードでペーシングが行なわれなくなってしまう(これをcross talk:クロストーク:混信という)からである。

心房ペーシングは、心室ペーシングの250msec前に行なわれている。この250msecは、AV delayとして設定されたものである。

心房ペーシングと、心室性期外収縮(PVC2)が同時だったために、心室リードでこの心室性期外収縮を感知することができなかった。そのため、心室ペーシングが行なわれてしまったわけである。

以上のように、ペースメーカーの作動は正常である。しかし、けっして、適切な作動であるとは言えない。

幸い、この心室ペーシングは、スパイクだけで、QRSを伴っていない。心室性期外収縮によってできた、不応期の中で心室ペーシングが行なわれたためである。

もうすこし、心室ペーシングが後ろにあったら、QRSを伴っていたかもしれない。そのときは、いわゆるRonT:アールオンティーの心室性期外収縮と同じこととなり、心室細動が誘発されてしまったかもしれない。AV delayを長く設定しておくと、この可能性が高くなる。

今回のような、心室性期外収縮が感知されずに、不適切な心室ペーシングが行なわれる問題は、どうすれば解消されるであろうか?

まずは、心房リードでペーシングするように設定されていることが問題である。心房ペーシングがおこなわれなければ、この心室性期外収縮がスパイクと重なることはなかった。つまり、DDIではなく、VVIにしておけばよかったのである。

VVIにできない事情がある場合には、AV delayを短く設定して、確実に、不応期内にペーシングになるようにすれば、安全である。しかし、AV delayを短く設定すると、今度は、心室ペーシングの行なわれる確率が高くなる。心不全の予防には、心室ペーシングをなるべく行なわないことが必要なので、心不全の予防には不利になる。

実は、完全にすべてを満足させる設定は、存在しない。まだ、ペースメーカーは完成された機械ではないのだ。

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